“失礼します。あなたがグラント様でしょうか?”
ああ、記者の方ですね。お待ちしておりました。はい、私がグラントです。
“この度はバッカスの酒の再生、バッカスグレープの木の再発見に関わられたと聞きまして。是非一度お話しを聞かせて頂けたら。”
ふふふ。関わったと言いましても、たまたま見つけたまででして…。本来なら取材を受けるような立場ではないんですけどね。全てはこのような大きなプロジェクトに携わる機会を下さったビルギレント様の功績だと思います。
“グラント様から見てこれから再販されるバッカスの酒、その出来栄えはどのように感じていますでしょうか”
そうですね…。大袈裟に聞こえるかもしれませんが、間違いなく今までのワインの常識を覆すように遥かに上回るかと。味、香り、舌触り。全てに置いてです。ただですね、いかんせんまだ準備できる本数が少なく…。一般の方に飲んでもらえるようになるのは当分先になってしまうでしょうね。そればかりが残念でなりません。
“かなりの自信があると伺えますね。グラント様はどうしてワイン作りを始めたので?”
私ね、実は少し前まで冒険者だったんですよ。自分で言うのもなんですが、そこそこは期待されていたルーキーでしてね。それこそエオルゼアの平和を支えるような仕事もしていたんですよ…。
あれ?…はは、信じられないって顔してますね。ふふふ、まぁ兎も角ですね、重要な依頼を失敗してしまいまして。信じてた仲間からも失望されました。
…いや、どうかな。私の代わりが見つかった、という事でお役御免と言った方が良いかもしれませんね。私が果たせなかった依頼を代わりに片付けてくれた人がいましてね。それからは皆そっちに夢中でした。
“……”
…ぐぅう…ああぁ、駄目ですね。今だにこの話をしますと頭が痛くなってくる。…どうでしょう、そこのベンチに座ってゆっくり話しを聞いていただけないでしょうか。
“…え、ええ。お願いします”
快諾ありがとうございます。そろそろこの思い出とも決別したくて。今日、記者さんが来ると知り、どうにか聞いて欲しいと思っていました。
それで…ああ。トラッハトゥームさんが私の代わりになったところからですね。トラッハトゥームさんのことはご存知です?
そうそう、あの英雄トラッハトゥームです。彼すごいですよね。ものの数年ですっかりと有名になってしまいました。本当にすごいものです…本当に。
…私ね、実は彼と面識があったんですよ。初めて会った時は、嘘ばっかだし、卑怯な勝負ばかり挑んでくるので、内心見下してたんですよ。ただね、それは振りだった。私が依頼を失敗して殺されそうになった時にね、颯爽と現れてあのタイタンを力だけで捩じ伏せたんです。いや、彼風に言うならタコタンか。私が何をどうしようとびくともしなかったのにね。今思えば、私の力を測るのに道化を演じていたのが分かりますよ。
それからですね、傷も癒えて現場に復帰したんですが、誰も私を見てくれないんですよ。みーんな新たな英雄のトラッハトゥームに夢中だ。虚しかったですよ。そう、虚しかった…。ただ一度の失敗で、居場所が消えてしまったんです…。
…それまで!それまであちこち世界中を飛び回ってきたのは私だ!命懸けで暁の依頼もこなしてきたのに…!世界のためだと仲間と協力して…!
…すいません。少し熱くなってしまいました。ともかく、より強い者が現れたら、もう用済みになるのが冒険者なんです。
ふふ、笑っちゃいますよね。当時はあちこち行かされて面倒くせぇな、なんて悪態付いていたのに。いざ何も頼まれなくなると、寂しい、と思うなんて。
あの頃の私は、その…とても面倒なやつでしてね。誰彼構わず突っかかって、そこらで喧嘩して、金があれば酒と女に溺れて…。その内、本当に誰もいなくなりました。
そんな時です、ビルギレント様から声を掛けて頂いたのは。彼はこう言ってくれました。
「そんなに酒が飲みたいならワインポートで共にワインを作らないか」
と。初めは疑ってかかりましたよ。そんな都合良い話があるもんか、普通はそう考えちゃいますよ。でもですね、ビルギレント様は本気でした。曰く、絶滅したと思っていたバッカスグレープを発見するような、そんなワインの神に愛されてるやつをみすみす見逃してたまるかと。これは慈悲ではない、ビジネスだと。そう仰ってくれたんです。
嬉しかった。まだ私を必要としてくれてる人がいる。それが堪らなく嬉しかった…。
本当はですね、バッカスグレープを再発見したのは私じゃないんですよ。本当の発見者は、ここからもっと南の方に小屋を建てて暮らすような、変わった人でした。顔も名前も、もう覚えていませんが、その人が本当の発見者なんです。その時はお互いワインなんかの知識もなくてですね、たまたま使っていた葉っぱがバッカスグレープだった、それだけです。それを私がたまたま依頼と同時に持ち帰ったのです。
…私は1人で何も成し遂げてないんですよ。だからこそワイン作りに没頭しました。私を必要と言ってくれた人へ恩義を返す為に。何かを成し遂げる為に。長くなりましたが、それがワイン作りを始めたきっかけですね。
“…その、なんていうか、壮大過ぎてとても“
信じられない、そう言いたいのですか?
ふふ、面白いことを仰りますね。…そろそろ茶番は終わらせましょう。記者さん、あなた、本当は暁の手の者でしょう?こちらの経緯なぞ知っている筈です。
“…なっ!?”
…何故?私にはちょっとした特異体質がありましてね。見えてしまったんですよ、あなたの過去が。今はあの銀髪の坊ちゃんが率いているんですね。もしかしてミンフィリアさんは逝きましたか?
…そうですか。…ふふっ。…ああ、いやいや気にしないでください。それで私にどういう用でして?
”…先日トラッハさんが蛮神ガルーダと交戦、討死にされました。もはやエオルゼアで蛮神に“
ちょっとちょっと!トラッハトゥームさんが!?あの英雄が死んだ?…うわぁ…世界は広いなぁ…。
…ああぁ、ああ、なるほど。それで私に。つまり、『元』英雄に白羽の矢が立ったと…。
はぁっはっはっは!…笑い事じゃないって?こんな愉快な事が?笑い事じゃないだって!?私を勝手に見限った連中が死んでいき!残った残党が見限ったはずの私に助けてくれと抜かしてくる!こんな愉快な事はそうそうないですよ!生きてきて良かったとさえ思える!まさに!こんな上等な喜劇を演じられるなんて!
”喜劇なんかじゃ…!世界が危機に瀕している!今戦わなければここにも戦火が及びます!”
ワインポートの為ならば、今一度剣を振るい、盾を構え、私の持てる全ての技を繰り出して住民を守りましょう。その為に命を失っても構わない。本望だ。しかしですね、世界の為になんて、命を無駄にするつもりは微塵もありません。
…大体ですね、世界の危機という割りにまだまだ余裕あるじゃないですか。
“そんなこと…!”
え、そんなことない?ではなぜ面識も繋がりもないあなたが私の説得に来るのです?世界が危機に瀕してるんですよ?そして私にしか解決出来ない案件だ。文字通り世界の命運を左右する、とても大きな交渉になるでしょう。
なのに来るのは下っ端の小間使い。組織のトップが来るのがせめてもの筋でしょうに。相も変わらずリーダーの座にふんぞり返って何か勘違いしてるじゃないですか。余裕がないなら余計なプライドなんて捨てて、今までの振る舞いをまず謝罪に来いと言いたいですね。
まぁ、あなたに言っても仕方ない。直接言いますよ。本当は話なんてする義理もありませんが。リンクパールを貸してください。
…え?…ない?…っち、どこまで舐めてんだよ…。ああ、失礼。ですが、余りの思い上がり振りにイライラしてしまいまして。…申し訳ない、協力は出来ない事をお伝えください。
とは言え、お土産が何もないんじゃあ、貴方も格好がつかないですよね。
こちらのワインをお渡しします。…本当はバッカスの酒が無事に販売出来たら、ここの皆と一緒に飲もうと楽しみにしていたんですがね。なに、事情を話せば皆分かってくれます。
上手く売れば5千万ギルにはなるはずです。当面の軍資金にでも当ててください。もちろん味も保証しますよ。売るも飲むもお任せします。ですが、これで私と暁の関係は全て解消と、そうさせて頂きます。では、話を聞いていただきありがとうございました。『取材』はここまでで…。
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そう言い残し、暁の元英雄グラントは葡萄畑の奥に消えた。後は追えない。無闇無策に追いかければ簡単に殺されそうだ。
“5千万のワインかぁ…”
このまま暁に持ち帰れば、説得に失敗したとはいえ、5千万ギル分の働きをした事にはなる。なるにはなるが、懐に入ってくるのはせいぜい千ギルだ。持ち逃げの考えがどうしたってちらつく。5千万ギルなんて一生働いても稼げる額じゃない。
“…無理だなぁ“
逃げ切れる訳がない。腐ってるが凄腕が揃う集団だ。新米の俺なんて数日もせずに捕まるのがオチだ。結局選択肢なんてない。依頼失敗を報告、ワインを渡す。それでいつもの気楽な毎日に戻れる。
…待て。グラントは発見者は別にいると言っていた。ここまで話が大きくなっているのに、顔を出さないなんてあり得るのだろうか。名前も顔も覚えていない。たまたまバッカスグレープの葉を使っていた。そんな偶然が本当に?
もしそいつが、まだバッカスグレープの葉を持っているとしたら…。バッカスの酒の量産に成功したら。ワインポートの評判はガタ落ちだ。あの狂人の英雄が放っておくだろうか…?
…やめだやめだ。この案件は俺の手には余る。俺の役目はこの酒をボスに届ける。それでもらった端た金で酒飲んで女を抱いて寝る。それで良いだろう?
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それが幸せと気付いたのは、遠くなる意識の中、埋められていく体を他人事のように見ながらだった。
